2007年9月議会 声明

■声明

◎9月6日付の大阪府「勧告」(「住民基本台帳法に規定する事務の適正な執行について」)に対する私たちの見解

去る9月6日、大阪府から箕面市に対してなされた「勧告」について、箕面市議としての立場から私たちの見解を以下に示すものである。

(1) 大阪高等裁判所の判決は「自己情報コントロール権」をふまえたものである。

この権利は「個人情報保護法」では明文化されていないが、「大阪府個人情報保護条例」では明確に規定されている。すなわち、府の「勧告」は「大阪府個人情報保護条例」と矛盾するものである。

2006年11月30日の大阪高裁判決は、自己情報コントロール権(自己のプライバシー情報の取り扱いについて自己決定する権利)は憲法で保障されているプライバシー権の重要な一つになっており、住基ネットが扱う住所、氏名、生年月日、性別の4情報について「私生活上の平穏が侵害される具体的危険がある場合は、自己情報コントロール権が侵害されたことになり、本人確認情報の利用の差し止めはできる」という判断を示した。

同判決は、情報漏洩の危険性について自治体でセキュリティー対策が施されるなど具体的な漏洩の危険は認められないものの、個人情報を利用する国の事務が、一次稼動時の93事務から今日では275事務を超えて、さらに拡大し続けている現状などを指摘している。行政機関が収集・保存している膨大な個人情報をデータマッチングし、検索が容易になった住民票コードをマスターキーのように使って、名寄せし、個人情報が際限なく集積・結合されて利用されていく危険性と、その危険性を回避させる法整備の不十分さ(個人情報保護法の限界など)、さらに本人確認情報がいかなる機関に提供され、利用されるか、本人が確認することは事実上不可能であることから、「住民個々人の多くのプライバシー情報が、本人の予期しない時に予期しない範囲で行政機関に保有され、利用される危険が相当あるものと認められる」と結論づけている。そして住基ネット利用が「住民の人格的自律を著しく脅かす危険をもたらす」とし、明示的に住基ネットの運用を拒否している住民にとっては「プライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害するもの」と断言している。

さて大阪府は、情報公開制度と個人の自立的存在を確保するためのプライバシー保護制度の確立に向け、率先して取り組んできた自治体である。1994年に設置された個人情報保護審査会の提言を基に1996年、「大阪府個人情報保護条例」を制定した。その前文には「個人の尊厳と基本的人権の尊重は、私たちの社会の基礎をなすものであり、この見地から、個人のプライバシーを最大限保護することが必要である。とりわけ、情報・通信技術の飛躍的発展がもたらす高度情報化社会においては、個人が自己に関する情報を自ら実効的にコントロールできるようにすることが必要である」と大阪府の立場を明確にしている。さらに第1条では「この条例は、実施機関が保有する個人情報の開示、訂正及び削除を請求する権利を明らかにするとともに、個人情報の適正な取り扱いの確保に関し必要な事項を定めることにより、個人の権利利益の保護を図り、もって基本的人権の擁護に資することを目的とする」と規定している。また第2条では「個人情報」とは「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものをいう」としている。

このように大阪府の個人情報保護条例は、憲法が保障する「個人の尊厳」「基本的人権の尊重」を基本にすえ、国の個人情報保護法の制度構築とは異なり「自己情報コントロール権」の考え方を明確にしている。その意味で、この条例運用の観点からこのたびの「勧告」は府の姿勢と矛盾するものである。

大阪府は府民の人権を守る立場から、控訴人以外の住民の権利についても擁護し、箕面市の「選択制」が速やかに実現するよう協力を惜しむべきではないと考える。

(2)「勧告」は地方分権・地方自治の流れに逆行する。大阪府には箕面市の法的解釈と運用について、箕面市の独自性を損なわないよう格別の配慮を行うべきである。その意味で、住基法36条の2により住民票記載事項の適切な管理の一環としての「選択制」は適法であると解釈できる。

改正地方自治法により、国・府・市町村が対等になったことは、もはや言うまでもない。地域自主行政団体としての自治体があり、第2条12項では、法令は自治の本旨に基づき自主的解釈運用が認められている。地方自治体はその責務を果たし地方の特性に応じた事務を遂行するために法解釈を行えるし、また行うべきなのである。

地方自治法第2条13項においては「地方公共団体が処理するとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない」と解釈、運用と配慮についても明確にしている。国は地方の独自性を損なわないよう「格別の配慮」をしなければならない。  住基ネット事務は市町村固有の自治事務である。箕面市は「箕面市人権宣言」を採択し、「箕面市人権のまち条例」で一人ひとりの人権を尊重するまちづくりを図ることを謳っている。

したがって住基法36条の2によって市長は箕面市の住民票記載事項に関する適切な管理義務として、希望する住民について住基コードを削除することができると解される。

地方分権改革推進委員会の本年5月30日付の「地方分権推進にあたっての基本的な考えかた」のなかで「めざすべき方向性として、国が地方のやることを考え、押し付けるという中央集権型のシステムは、もはや捨て去るべきである」として分権型社会への転換を提唱している。大阪府も国の意向がどうであれ、冷静かつ主体的に箕面市の特性に応じた政策判断を尊重し、協力すべきである。

以上のことをふまえ、大阪府が今後において府の主体的立場で「地方自治の本旨」を貫き、箕面市の住基ネット「選択制」に向けた整備について協働で取り組んでいただけるよう期待する。

  • 2007年9月24日
  • 箕面市議会
  • 北川照子
  • 中西智子
  • 前川義人
  • 牧野直子
  • 増田京子

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